house of color

shift focus

私の制作概念は“人間は、生きているのか、死んでいるのかわからないものとして存在している”というもので、この概念を踏まえた作品“非焦点”を制作しています。この作品は、“見ると見えないもの”を主題としており、人間の視覚と存在、そして私たちと世界とのつながりについて深く探求しています。

人間の目はある一点に焦点を合わせると、周囲の物体の輪郭や色がぼやけてしまい、はっきりとは認識できません。一方で、そのぼやけた像に焦点を合わせると、以前見ていたものが見えなくなります。この現象を用いて、“見ると見えないもの”に対する意識を喚起し、作品を観る人々に考えを促しています。

実際に私たちが見る世界は、一瞬一瞬の連なりと過去の経験から成り立っており、カメラのレンズのように一度に全てを捉えることはできません。16歳のころに絵を描く際に感じていた「見たままにしか描けない」という苦しみも、この作品に反映されています。見るという行為の中に、倍率変換させる考えなどは存在せず、物の姿をそのままの大きさで描くことを追求していました。

この作品を通じて、私たちは一点しか見ることができず、その他のものはぼんやりとしか見えないこと、さらには見えていると錯覚することもあるという事実に気づかされます。その“ぼんやりとしている世界”を描くことで、私たちが存在する世界との連なりをより深く感じることができるのではないでしょうか。

最終的には、人間の目で“見ることができないもの”に対して、鑑賞者自身がどのように感じ、考えるのかを問う作品です。その答えは、自分自身の感覚を研ぎ澄ますことで見つかるかもしれません。


2021年9月15日